あなたがちいさく笑って言いました。
  
 
「おやすみっていうのはね、寝る前に言うものだよ。ねむい?」
 
  
ねむくない、首を振るだけの仕草。
電話なのだから言わなければ伝わらないのに、ゆるゆると首を振る。
ゆったり目を瞬いて、あなたの声を聞き逃すまいと声を殺した。


「少し眠そうだね」

「・・・なんで?」

「なんとなく。違う?」
 
「ちょっとねむい」
 

くすくす笑いながらあなたが「おやすみ」と言うのが嬉しくて、
でも電話を切るのは寂しくて。
 

「やだ」

「じゃあもう少しだけね」

「ねむい?」

「ううん」


もう少し喋ったところでうとうとと瞼が下りてくる。
ねむりたくない。
ねむい。
でも声が聞きたい。
もう少し、もう少し。

  
  
「じゃあおやすみ」
  
  
あなたがそう言うから「うん、おやすみ」と頷いて、
しばらく電話が切れるのを待っていた。
切りたくないから切ってくれたら諦める。
そう未練たらしく待っていると、

  
続く、無言だけの会話。
 
 
 
ふたりして同じこと考えていたのかと笑ったら、「切ってよ」って。
やだもん、切りたくないんだから切ってよ。
お互いがお互いに押し付けあって、せーので切ることに。

「せーの」

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・あはっ」
「もう、切ってってばー」
「お前もだろ」
「・・・」
 
そんなことを繰り返すこと3回。
耳に押し当てていた小さな機械は、今はただ発信音を鳴らすだけ。

寂しくなって画面を閉じたと同時に鳴り響くオルゴール音。

コレを鳴らすことができるのは遠くにいるあなただけ。
急いで開いたメールには、飽きるくらい言い合った「おやすみ」
それから「また明日」



また明日、あなたの柔らかい声があたしを通り抜けていくために。
また明日、あなたが呼んだときにすぐに元気に応えられるように。


また明日、あなたに大好きだと言うために。


おやすみなさい、また明日。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索